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プロダクションノート:「RE-INNOVATION - 家具再生の新しいかたち-」で藤井隆行さんが考えたこと

プロダクションノート:「RE-INNOVATION - 家具再生の新しいかたち-」で藤井隆行さんが考えたこと

2022年10月、伊勢丹新宿店でイベント「RE-INNOVATION - 家具再生の新しいかたち-」において、nonnativeデザイナーの藤井隆行さんが監修したマルニ木工のリノベーション家具が披露されました。ここでは、家具のリノベーションを監修するにあたって、藤井さんがどのようなことを考えながら実施したのかをうかがいました。藤井氏監修モデルの背景にあるものとは?

コラボだからって飾らずに、実際に使ってほしい

nonnativeデザイナーの藤井隆行さん

藤井さんがカスタマイズするにあたって常に気にかけていたのは、「実用的であるか」という点です。その上で、いかに独創的なアイデアを出せるかを検討していました。

藤井隆行さん(以下、藤井):
僕が家具を買い足すときに考えるのは、部屋とのコーディネートです。例えば家具の木の色と床の色を合わせる手法がありますよね。その点、工場で見た古いマルニ木工の家具の多くは濃い茶色で、もっと明るくした方が現代の部屋に合うのではないかと思いました。

コラボをする上で、僕のブランドのnonnativeをシグネイチャーする路線もあり得たと思います。しかし今回はそうしたアイコニックなコラボではなくて、実際に家具のコーディネートをする目線でカスタマイズのアイデアを練り、自宅で使ってもらいやすい実用的なモデルを作ろうと思ったのです。家具は飾るものではなく、使うためにあると思うので。

今回のモデルには僕自身の好みが反映されていますが、僕の家に置きたいか云々というよりも、家具そのものを見て、マルニ木工のデザインの核のような部分を残しながら、マルニ木工では思いつかないようなオリジナルのアイデアを出すことを自分に課しました。

「RE-INNOVATION - 家具再生の新しいかたち-」のために藤井さんがカスタマイズしたのは、デルタチェア、ショパンアームチェア、ショパンロッキングチェア、ロープチェア、マガジンラック2種の6モデル。

リノベーション前のモデル。元の塗装がそのまま残っている状態 リノベーション前のモデル。元の塗装がそのまま残っている状態
リノベーション後の藤井氏監修モデル。右:マガジンラック、左:ペーパーコード仕様のデルタチェア。塗装を落として木の地肌をあらわにし、そこからマットクリア塗装。木の色を生かしつつ、しっとりとやや濃く見える「濡れ色」に仕上げる リノベーション後の藤井氏監修モデル。右:マガジンラック、左:ペーパーコード仕様のデルタチェア。塗装を落として木の地肌をあらわにし、そこからマットクリア塗装。木の色を生かしつつ、しっとりとやや濃く見える「濡れ色」に仕上げる
デルタチェアのペーパーコードの座面 デルタチェアのペーパーコードの座面
ショパン ロッキングチェア。真鍮のリングは本来アーム部の部分のみ付属しているが、藤井さんのアイデアで背の部分にも追加した ショパン ロッキングチェア。真鍮のリングは本来アーム部の部分のみ付属しているが、藤井さんのアイデアで背の部分にも追加した
手前:ロープチェア、奥:ショパン アームチェア。ロープチェアは藤井さんの感覚で黒のロープをチョイスした 手前:ロープチェア、奥:ショパン アームチェア。ロープチェアは藤井さんの感覚で黒のロープをチョイスした
籐を使ったマガジンラック 籐を使ったマガジンラック

藤井さんは古いマルニ木工の家具に初めて出会った時の感想を、このように述べています。

藤井:
本立てが欲しいと思って探していたとき、たまたま見つけて購入したのが古いマルニ木工のマガジンラックでした。 自宅ではイサム・ノグチ、シャルロット・ペリアン、ピエー ル・ジャンヌレなどの家具を使っていて、それらと雰囲気が似ていたことが購入の決め手です。でも、芸術家たちの家具とマルニ木工の家具は出自が全然違うはずなのに、似た印象を受けるのは、よく考えると不思議な話ですよね。

なぜそういうことが起きたのか。思い当たったのは、製作年代が同じくらいの時期なのではないかということ。足の形などに共通点があるし、ペリアンは和の素材を自作に取り入れていたりしていて、どこかの時点でアジアとフランスが合流したのだろうなと、当時の家具デザインをめぐって想像を膨らませました。今回の監修モデルの元になった家具も、それらの芸術家たちの家具とどこか遠くで響き合っている感じがしますね。

藤井氏の作業風景

数々の名作をその目で見て、実際に使ってきた藤井さん。熱烈な家具好きの視点から、見る人が見れば瞬間的に「やられた」と思うようなオリジナルモデルが完成しました。具体的な仕様についてはこのように語っています。

藤井:
デルタチェアの座面をペーパーコードにしたのは、今までやっていなかったからという理由もありますが、和風な感じや座り心地が好きだから。ショパンのベージュっぽいウルトラスエードの座面は僕が自宅で使っているものに近い色。ショパンの真鍮リングを追加したのは、洋服のセットアップを意識して。そうやって僕なりの根拠がある仕様にしています。

監修するにあたって現行のマルニコレクションのデザインを見て勉強しましたが、ものすごく洗練された世界観を持っていて、100人いれば100人がいいと感じるものだと思います。僕が携わるのであればその方向ではなく、万人には受けないかもしれないけど、意志をもって絶妙な部分を突いたものがやりたかった。100人のうちいいと言うのは10人のみだけど、その10人はものすごくそれが好き。そういうプロダクトです。

リノベーション家具の可能性が広がった。次回作を乞うご期待!

藤井氏とマルニ木工スタッフ

藤井氏監修モデルを見たマルニ木工スタッフは、自分たちでは思いもよらなかったアイデアの数々に感心させられっぱなし。どれも突飛なものではなく、それでいてリノベーション家具の枠をさらに広げていただいたようなモデルに仕上がりました。また、藤井さんからマルニ木工の過去のモデルを尊重していただいている気持ちが伝わってきて、うれしい気持ちにもなりました。

今回のイベントを担当したマルニ木工の中澤はこう振り返ります。「僕が入社した当時のマルニ木工は超クラシックな家具を作っていましたが、それがだんだん時代に合わなくなってきた。その後マルニコレクションをきっかけにさまざまな分野のデザイナーとの交流が生まれ、彼らに昔の家具を見せてみると、意外にもデザインがおもしろいと言ってくれる。僕らにはない視点で家具を見るんですよね。色を塗らず、ファブリックも変えて、今の時代に合わせたチューニングをすれば全然通用すると指摘を受けたとき、古いデザインだと思い込んでいた昔の家具の可能性にワクワクしてきました。藤井さんもまさにそういう目を持っていて、オールドマルニの新たな魅力を引き出していただいたと思います。次の藤井氏監修モデル、ぜひ作りましょう」

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