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半世紀にわたり愛される「デルタチェア」。特徴と歴史を深掘り

半世紀にわたり愛される「デルタチェア」。特徴と歴史を深掘り

マルニ木工のデルタチェアは、中古家具市場で人気のある椅子です。オークションサイトなどをのぞくと、木部の割れや塗装剥げのある、あまり状態のよくないデルタチェアですらたくさん発見できると思います。

マルニファニシングではそのような古いデルタチェアを引き取り、アップサイクルして販売しています。まっさらな新品のように元に戻すのではなく、古いものの良さをきちんと残しつつ、仕上げや座面のセレクトで今の時代に合うものにリノベーションしているのです。

座面がなくなってしまった古いデルタチェア。新たに座面を作り、革やファブリックを張る 座面がなくなってしまった古いデルタチェア。新たに座面を作り、革やファブリックを張る
デルタチェアの背は特に塗装や木材の劣化が気になる部分 背は特に塗装や木材の劣化が気になる部分
デルタチェア、元の塗装を剥がし、修理したのち、木の質感を生かしたクリア塗装を施した 元の塗装を剥がし、修理したのち、木の質感を生かしたクリア塗装を施した

「デルタチェア」ってどんな椅子?

デルタチェアは1960年頃にマルニ木工が量産化した椅子で、レトロな外観は現代の目で見ると新鮮に感じます。大きさはやや小ぶりで、メインでもサブでも使いまわしのきくタイプ。

デザインの特徴と構造を兼ね備えているのが三角形で支える「トラス構造」を応用した脚。トラス構造とは川に架かる橋や鉄塔、ドーム建築などに採用されている構造形式で、部材同士を三角形につなぐことで強度を高め、重さを支えています。

東京タワーもトラス構造で支えている 東京タワーもトラス構造で支えている

使い続けることで新たな魅力を発見するファブリック

当時の木の椅子は背もたれと後脚が一体となったものが大半で、それらは床から背中までの長い部品が必要になります。一方デルタチェアは直線的で短い部品が中心。木材の歩留まりがよく、機械化を高められる構造です。マルニ木工が掲げる「工芸の工業化」を目指した先に、非常に独創的なデザインの椅子が生まれたと言えるでしょう。

木材を組み合わせた三角形の構造。「工芸の工業化」を目指し、木材の取り都合をよくする意味もあった 木材を組み合わせた三角形の構造。「工芸の工業化」を目指し、木材の取り都合をよくする意味もあった
食堂の椅子、ダイニングチェア

肘掛けがなく、くつろぐためのリビング用途として生まれたのではありません。ではなんのためかというと、食堂の椅子、ダイニングチェアです。一般家庭にテーブルとともに売り出され、大ヒットを記録しました。

『創業50年史』からデルタチェアの歴史をひもとく

デルタチェアは、昭和57年(1982年)に発行したマルニ木工の社史『創業50年史』に「35号」「No.35」といった名前で登場します。同様の構造を持った前身の38号新生椅子(1950年発売)に類似品が出回り、新たなデザインの椅子が必要になったことが製作のきっかけでした。

左が38号新生椅子、右が初期型の35号椅子で、のちのデルタチェア(『創業50年史』より 左が38号新生椅子、右が初期型の35号椅子で、のちのデルタチェア(『創業50年史』より

38号のトライアングル構造をさらに発展させたもので、38号では独立していた前脚と后脚(注:後脚)を三角形に組合わせた独特の構造になった。この35号は、発売後間もなく日産800脚という当社の歴史上初めての量産家具になった記念すべき製品である。(『創業50年史』より)

と、初期のデルタチェアについての記載があります。はっきりとした年次は書かれていないものの、続く文章から推察するに1951年頃のことと思われます。

そして1958年、「No.35デラックス型小椅子」の名前で現在と同じデザインのデルタチェアが発売されます。

居住空間に置かれたテレビは、豊かさの象徴 居住空間に置かれたテレビは、豊かさの象徴

この頃の日本は、高度経済成長の真っ只中。白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫の「三種の神器」を持つことが豊かさの象徴としてもてはやされ、人々の暮らしがドラスティックに変化した時期。さらに、台所と食卓が近接したダイニングキッチンが徐々に広まっていき、ソファとテーブルを置いた「応接間」が部屋の一角に作られたりと、インテリアにおいても大変革が起きていました。

デルタチェアは木製テーブルとともに「食堂セット」として売り出され、日本の家庭の家具が洋化する60〜70年代に大ヒットしていく(『創業50年史』より) デルタチェアは木製テーブルとともに「食堂セット」として売り出され、日本の家庭の家具が洋化する60〜70年代に大ヒットしていく(『創業50年史』より)

『50年史』には60年頃の目標生産数は月産1500脚とあり、いかに多くのデルタチェアが家庭に送り出されたのかを物語っています。

1982年、創業50年を機に発行されたマルニ木工の社史。非売品 1982年、創業50年を機に発行されたマルニ木工の社史。非売品

生活のシーンに、デルタチェアを溶け込ませて

人気を誇ったデルタチェアも時代を経てその役目を終え、1981年にカタログから姿を消しました。しかし2017年に「マルニ60」のラインナップのひとつとして復活します。

マルニ60とは、「D&DEPARTMENT」を率いるデザイン活動家のナガオカケンメイさんがロングライフデザインを伝えるために誕生させたプロジェクト「60VISION」(ロクマルビジョン)のブランドのひとつ。日本を代表するメーカーの廃番アイテムから、1960年代に生まれたものをセレクトし、リブランディングして新たに提案する取り組みです。

マルニ60での展開例。デルタチェアは複数の家族でも一人暮らしでも使いやすい マルニ60での展開例。デルタチェアは複数の家族でも一人暮らしでも使いやすい

デルタチェアもその目に叶い、フレームチェアやスタッキングスツールなどとともに、流行にとらわれず長く愛せる椅子としてマルニ60のラインナップの中核に存在し続けています。

デルタチェアを自宅に迎え入れて愛用するのは、木工椅子の歴史やデザインの先進性に触れ、それらを含めて愛していくことでもあると思うのです。60年代に作られたヴィンテージを修理したマルニファニシングのデルタチェアは、まさにホンモノの歴史的プロダクト。次世代へ継いでいきたい一生もののアイテムとして愛用していただけたらうれしいです。

ダイニングや書斎の椅子としておすすめ。自宅のほか、店舗用途もアリ ダイニングや書斎の椅子としておすすめ。自宅のほか、店舗用途もアリ

片手で持てて取り回しやすく、座り心地もよし。ダイニングチェアなので食事をする椅子として使うのが本来的ですが、背もたれがあり長時間座っていても疲れないので、書斎などで読書や仕事の椅子として使っている人も多いかもしれません。アームがなく横からでも座れるので、ちょっと座りたいときに腰掛けるスツールのように使うのもあり。ぜひ思い思いのシーンでご使用ください。

  

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